月別アーカイブ: 2017年5月

【アイルランド】水道料金をめぐる政治問題

かつて日本は「水と安全はタダだと思っている」と陰口をたたかれていた時代があったらしいです。安全についてはタダどころか、GDPの1%を超えるか超えないかの国防予算を組んでいるし、水も安定供給を維持するために当局はまめに上下水道施設のメンテナンスを行っていて、そのための負担を水道料金という形で受益者は払っているのですが。

ところでアイルランドは少し前まで、各家庭が水道料金を負担しない、EUで唯一の国だったそうです。「だった」と過去形にしていますが、実はこれが同国の政治問題になっていて、現在も多くの人たちが水道代を払っていないらしい。このあたりのいきさつを、ラトヴィアの新聞が伝えています。

全文はちょっと長いのですが、内容をかいつまんで書いて見ますと:

・EU加盟国は”Water Framework Directive(水道枠組み指令、WFD)”を尊重する義務を負っている。WFDとは主にEU域内の水質保全を目的とした枠組みである。水の汚染者(=使用者)が供給コストを支払うのが原則である。ただしアイルランドはWFD第9条によりその義務を免除されてきた。
・近年アイルランドでは「水」と「会計」にまつわる概念が整ってきたため、EU委員会はもはやアイルランドに免除条項は適用されないと考えた。ギリシャに端を発した欧州経済危機のときに、アイルランドが融資を認められた条件が、水道料金制度の導入であった。
・当初当局は、水道メータ導入家庭には1,000リットル当たり4.88ユーロ、メータのない家庭には年間大人一人当たり176ユーロ、大人の構成員が増えるごとに一人当たり102ユーロの料金体系を決めたが、市民から猛烈な反発と抗議を受け、契約者・期間限定の割引料金などを提示して妥協を図った。しかし抗議はその後も続いていて、2015年時点でも全家庭の36%、約50万人が支払いをしていない。
・議会側から代案が出されるとそれに対する抗議が起こる。水道代なしの慣習でやってきたのだからそれでいいのでは、と疑問を投げかける議員もいるが、政府はEUに対し、水道料金を導入すると約束しているので、もしこの方針を撤回するとなると裁判沙汰となり、一日に何百万ユーロもの罰金を払わなくてはならなくなるかもしれない…

誤訳があったらごめんなさい。
この中で出てくるWFD第9条ですが、自分が見る限り、アイルランドのアの字も出ていない(WFDの英語テキストはこちら)。見る人が見れば、これはアイルランドを指している、ということがわかるのかもしれませんが、門外漢の日本人としては深く追求せず、ここはこうなのだ、と思うことにしましょう。

もともとアイルランドでは、水道代というのは一般の税制度の中で徴収されていたそうです。日本でも賃貸住宅の中には、家賃に水道料金が含まれている物件もあるので、このあたり理解はしやすい。同じインフラでも、電気・ガス・電話といった近代的なライフラインに対して、水というのは神代の昔から住まいの近くにあったはずだから、合理的に扱えない側面があっても不思議ではないでしょう。

ところで、この料金体系は高いのか、安いのか? 東京の水と比較してみました(東京都水道局の料金早見表はこちら)。水道局のHPには人数別の1ヶ月あたりの平均使用水量が載っているので、家族3人(約20立方メートル)、5人(約30立方メートル)のケースでシミュレーションしてみます。

東京の上水道は呼び径(メータ口径)で価格が異なるのですが、一番大きな25mmですと、20立方メートルの場合1ヶ月当たり3,391円、下水道が1ヶ月当たり1,684円なので合計5,075円。30立方メートルの場合は1ヶ月当たり4,773円、下水道が1ヶ月当たり2,821円なので月額合計7,645円。

これに対しアイルランドは、メータつきの計算式では、1,000リットル=1立方メートルですから、1ヶ月の消費量20立方メートルでは4.88×20=97.6ユーロ(1ユーロ120円とすれば97.6×120=11,712円)。30立方メートルでは4.88×30=146.4ユーロ(同146.4×120=17,568円)。メータなしの、家族の構成員数で計算されるケースでは、大人3人のときは年額176ユーロ(一人目)+204(102×2;二人目と三人目)ユーロ=380ユーロとなり、月額にすると31.66…ユーロ(同3,800円)。大人5人のときは二人目以降が408(=102×4)ユーロなので合計584ユーロ、月額48.66…ユーロ(同5,840円)?

家族3人の1ヶ月料金が、メータつきでは100ユーロ近くで、メータなしが30ユーロちょっとなんて、3倍も違う!使用水量が東京とは違うのでしょうか。また、追加分の大人料金102ユーロの扱いについては、我ながら翻訳がちょっと怪しいので、アイルランド当局の料金表に当たるべきかもしれません。

水道代込みの税体系をどうするのか、記事に言及がないのでなんともいえませんが、このままでは税と水道料での2度払いになるようにも見えます。とすれば抗議のデモも不払いも理解できないことはありませんが、現地の反発の根っこはもっと深いようにも思えます。イギリスの離脱問題で揺れるEUですが、異なる文化や歴史を持つ国々をひとつにまとめる難しさを象徴する事案のひとつといえそうです。

Photo via Good Free Photos

【ノルウェー】白樺花粉

日本では2月を過ぎ、春めいてくると、巷では花粉にまつわる話題が多くなります。自分は花粉症ではないのでよくわからないのですが、敏感な人は、もう飛んでる、などといってマスクをしたり、薬を求めたりして、準備に怠りがないようです。

ノルウェーでも花粉に悩む人は多いと見えて、現地の新聞に記事が載っていました。木の種類ごと、地方ごとに、その日と翌日の2日間の飛散予想をするサイトいくつかあるようです。ちなみに表中、縦の列の木の種類は、hassel=ハシバミ、salix=ヤナギ、bjørk=シラカバ、gress=草、burot=よもぎ。

花粉というと、日本では杉やヒノキがあげられますが、ご当地ではシラカバが厄介者扱いされているようです。シラカバとかダケカンバとかは日本の山でもよく見かける木で、実際本州中央部の山の中腹域より上部では、ポピュラーな存在ですが、これにも花粉があるとは認識の範囲外でした。記事の中に樹木の写真が載っていますが、どことなく奥多摩あたりでも見るような… また、シラカバとならんで、ヤナギの花粉も流行の兆しがあって、こちらは粘着性の花粉を昆虫が運ぶので、より始末が悪いようなことを書いています。

記事自体は、オスロ近郊の飛散状況と対策を解説しているだけですが、花粉症は4,50代で最もよく発生する、花粉症患者は他の重篤な病気にかかるリスクが低い、などと、ちょっと意外な文章をつづっています。

北国の春ではありませんが、ノルウェーにも春がやってきたのに、南風に乗って青空に舞うのは白樺の花粉である… というのではしゃれにもなりませんね。

(アイキャッチ画像はノルウェー紙「aftenposten」電子版より)

【チェコ】若者の飲酒喫煙に関する記事

がチェコの新聞に載っていたのですが、ここで報じられているのはアイスランドでの事例で、それがチェコとどう結びつくのか、文章を読んだ限りではわかりませんでした(記事はこちら)。

記事によると、90年代後半ころのアイスランドの若者の飲酒喫煙、薬物摂取の状況はヨーロッパでも最悪レベルだったとのこと。15,16歳の40%以上が習慣的に飲酒喫煙していて、17%は大麻の経験があるとする調査結果もあった。金曜の夜のレイキャビクは、荒れたティーンエージャが騒いで、危険な雰囲気に満ちていたそうです。

この事態に対して国を挙げての矯正プログラムを作成・実行したことにより、今ではこれら悪習慣はほぼ撲滅されたそうです。13~16歳の未成年者に対する夜間外出禁止令、20歳未満の若者への酒類販売と18歳未満へのタバコ販売の禁止といった政策のほか、学校の課外活動、特にスポーツへの参加に重点をおいた支援を行った結果、国のサッカーチームがヨーロッパの大会で上位の成績を残すまで成果が上がった。何よりもプログラムは家族の生活に目を向けていて、子供たちが両親と最良の時間を過ごせるようになったと結んでいます。

記事ではこのアイスランドの成功に触発された欧州プロジェクトに、17の国と35の都市が参加している… としていますが、その中にチェコも入っているのかどうかを明らかにしていません。文章中にはチェコのチェの字も出ていないのです。

アイスランドというのは、北海道よりやや広いくらいの面積に、32万人程度(2012年:旭川市と同じくらい)の人が暮らす島国です。若年層が荒れる風景というのは大都会のイメージがあって、原始的な自然景観が残る国とはどうも結び付けにくいのですが、どんな社会でもそれなりに、若い人たちへの扱いに大人が苦労する場面があるということなのでしょう。チェコも比較的のんびりした印象がありますが、同様の悩みがあって、それがこうした異国の成功例を記事にとりあげた背景なのかもしれません。

(アイキャッチ画像はチェコ紙「Týden」電子版より)

【ラトヴィア】報道に見える日本観

ラトヴィアと日本はかなり距離を隔てていますが、情報化社会の網はお互いをカバーしていると見えて、現地の報道記事にも、時折日本の話題が出ています。

2007年に天皇皇后両陛下の訪問があったということもあってか、このたびの退位に関するいきさつは興味を引いているようです。全体的には時事問題、政治経済分野よりも、どちらかというと観光案内的な内容が多く、京都や浅草の正月風景の紹介や、花見の記事などもありました。利害や損得の側面がなく、平和というのか、どこか現実感のない、やはり遠い国なのだ、という思いがします。

反対に紙面(電子版なので画面?)に「Krievija(ロシア)」の文字を見ない日はありません。かつてソ連の一員だったということもあるのかもしれませんが、政府要人の発言と一挙一動、食料エネルギー問題から安全保障政策まで、東の大国に対するぴりぴりした緊張感が伝わってきます。

そんな中で、日本の一地方であった事件が報じられていました(記事はこちら)。内容自体は、公園の公衆トイレの屋根裏で暮らしていた男が捕まったという、新聞というよりはテレビのバラエティ番組か、エログロ週刊誌あたりが取り上げそうな他愛のないものです。ラトヴィア紙はBBCの報道を引用したらしく、BBCは毎日新聞の英語版を情報ソースとしています(日本語の毎日はこちら)。

BBCの名前を出していますが、ラトヴィアの新聞の感心なところは、子引きのBBCの文章を鵜呑みにせず、原典(毎日のテキスト)にあたって、情報の正確さを担保しているところです。この事件の舞台となっているのは大分県の臼杵市なのですが、BBCは西南日本のウスキとしていて、大分という言葉は出していない。そこをラトヴィア紙は Oita prefektūrā と補っています。またBBCの訳には誤りがあり、屋根裏部屋にペットボトルが300本以上あったというところを、500本のプラスチックボトルとしているのですが、こういうところも丸写ししていません。BBCは臼杵市役所が提供した、事件現場の純和風の公衆トイレの外見写真を、毎日と同様引用していますが、ラトヴィア紙は某SNSからとして、独自の画像を載せています(これがその、純和風の建物の内部なのかどうかはわかりませんが)。

ラトヴィア紙のタイトルを直訳すると、「3年間公衆トイレに隠れていた日本人」となるでしょうか。BBCは「3年間日本のトイレの上で暮らしていた男」、毎日の英語版は「3年間大分県の公衆トイレの上で暮らしていた男を発見」。3年間、公衆トイレというキーワードで読者の注目を狙っているところは同じですが、「住む、暮らす」ではなく、「隠れている(潜伏=slēpjas)」という言葉を使っているのが興味深いところです。男が逮捕されたということで、逃亡中の犯罪者と考えたのでしょうか。

例によって文章は、発見のいきさつや現場の様子、その後の対応などを淡々と伝えているだけですが、この出来事の何が彼らのアンテナにかかったのだろう、かの地にはこういう住生活?をしている人はいないのだろうか、潜伏する、という言葉に彼らの琴線に触れる何らかの意味があるのだろうか… と、想像をめぐらせてしまいました。

(アイキャッチ画像は電子版ラトヴィア紙「vesti.lv」より)