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【アイルランド】ホームレスデモ

人の身のまわりの衣食住は、社会で生きていくうえで大切な事柄ですが、中でも住まいの確保は重要です。
雨風や寒暖など、外界の自然環境から身を護る、食事をする、安心して眠る、くつろぐ場所としての家屋のあり方は、その人の人生観にも深く影響を与えていると思います。

アイルランドのダブリンで、いわゆるホームレスのデモがあったそうです。
この「ホームレス」という言葉、てっきり和製英語なのかと思っていましたが、れっきとした英語であるようで、文中でもしっかり homeless と表記されています。
記事によると、数千の市民が住宅問題の解決や学生寮の充実を要求して市内を行進し、終点で主催者側から何人かが演説した模様。

行進の様子や演説内容の詳細は省きますが、文中、いくつかの固有名詞や数字が出てくるので、確認してみます。

行進を主催したのは National Homeless and Housing Coalition なる団体だそうで、SNSなどで情報を流しているようですが、その活動や話題を扱った報道を、自分はまだ見出していません。

the Garden of Remembrance をスタートして、O’ Connel Bridge まで1時間強、デモ行進した、とあります。
以下のダブリンの地図で確認しますと:

スタート地点の the Garden of Remembrance は、祖国のために命をささげた愛国者を記念した公園です。
O’ Connel Bridge は、その南南東にある橋で、あいだの距離は2kmくらい。
東京でいえば、上野から浅草、渋谷から明治神宮といった距離感覚でしょうか。

演説の中に Jonathan Corrie なる人物が登場しています。
この人は4年前に、Leinster House と呼ばれる、アイルランド議会の議事堂の前の路上で死亡しているのが発見された、ご当地では有名なホームレスらしい。
演説者は、この伝説的なホームレスを引き合いに出して、”Garda stations” に寝ているものばかりがホームレスではない、と言い、議事堂の前で一生を終えた人への黙祷を呼びかけています。

この “Garda stations” ですが、”Garda” というのはアイルランドの警察機構のことで、警察官をそう呼ぶこともあるそうです。
組織の詳細や実態がよくわからないのでなんともいえませんが、”Garda stations”は、派出所ないしは警察署のような、職員の常駐・待機施設なのでしょう。
少なくとも “Garda” という名前の駅に泊まっている、のではありません…
日本の警察はどうなのか知りませんが、交番に一宿一飯をお願いして、全国を旅しているつわものもいるようなので、住処を失った人たちを保護することもあるのかもしれません。

Department of Housing, Planning and Local Government (住宅計画地方自治省?)によれば、9,724人が公設の一時施設(State-funded emergency accomodation)に身を寄せているとあります。
また別の報告として、ホームレスのうち、約8%は学生であるという、ちょっと意外な数字がありました。

これらがどこからの引用なのか、記事には詳しくは書いてありません。
調べてみたところ、同政府機関のサイトに、ホームレスの年次調査結果が載っていました。
その中で “Homelessness Report April 2019” によれば、18歳以上のホームレスは全国で6,584人(ダブリン市は4,401人)、うち男性が3,884人、女性が2,700人(ダブリン市はそれぞれ2,538人、1,863人)、18歳から24歳までが903人、25歳から44歳までが3,896人、45歳から64歳までが1,651人、65歳以上が134人となっています(ダブリン市はそれぞれ582人、2,647人、1,105人、67人)。
ただしこの6,584人の大多数は緊急避難施設や一時避難所などに身を寄せていて、支援の手のまわらないところで暮らしている人はほんのわずかということになっています。
また、高齢者層よりも、働き盛りの年齢層の割合が多い点、女性の比率がそれなりに高い点も興味深いところです。

日本では、厚生労働省がおこなった「ホームレスの実態に関する全国調査」があります(調査結果はこちら)。
平成30年1月の調査では、ホームレスは全国で4,977人、うち男性が4,607人、女性が177人(このほか不明が193人)いるとされています。
ただし、この調査は、公園や地下通路、橋の下などで、テントやダンボールでこしらえた寝床で暮らす、いわゆる路上生活者を対象としていて、インターネット喫茶などを泊まり歩いている、いわゆるネットカフェ難民などの、ホームレス状態が顕在化していない人たちが含まれておらず、実態把握には不完全であるとの批判があります。

日本でホームレスといえば、どちらかといえば貧困や失業などによる、困窮の象徴の感がありますが、かの地では住宅問題として捉えているように思えます。
文面や写真などで推測する限りでは、地震や洪水などの災害で住む家を失い、避難生活を余儀なくされている被災者の姿が重なります。

Photo via Good Free Photos

【アイルランド】水道料金をめぐる政治問題

かつて日本は「水と安全はタダだと思っている」と陰口をたたかれていた時代があったらしいです。安全についてはタダどころか、GDPの1%を超えるか超えないかの国防予算を組んでいるし、水も安定供給を維持するために当局はまめに上下水道施設のメンテナンスを行っていて、そのための負担を水道料金という形で受益者は払っているのですが。

ところでアイルランドは少し前まで、各家庭が水道料金を負担しない、EUで唯一の国だったそうです。「だった」と過去形にしていますが、実はこれが同国の政治問題になっていて、現在も多くの人たちが水道代を払っていないらしい。このあたりのいきさつを、ラトヴィアの新聞が伝えています。

全文はちょっと長いのですが、内容をかいつまんで書いて見ますと:

・EU加盟国は”Water Framework Directive(水道枠組み指令、WFD)”を尊重する義務を負っている。WFDとは主にEU域内の水質保全を目的とした枠組みである。水の汚染者(=使用者)が供給コストを支払うのが原則である。ただしアイルランドはWFD第9条によりその義務を免除されてきた。
・近年アイルランドでは「水」と「会計」にまつわる概念が整ってきたため、EU委員会はもはやアイルランドに免除条項は適用されないと考えた。ギリシャに端を発した欧州経済危機のときに、アイルランドが融資を認められた条件が、水道料金制度の導入であった。
・当初当局は、水道メータ導入家庭には1,000リットル当たり4.88ユーロ、メータのない家庭には年間大人一人当たり176ユーロ、大人の構成員が増えるごとに一人当たり102ユーロの料金体系を決めたが、市民から猛烈な反発と抗議を受け、契約者・期間限定の割引料金などを提示して妥協を図った。しかし抗議はその後も続いていて、2015年時点でも全家庭の36%、約50万人が支払いをしていない。
・議会側から代案が出されるとそれに対する抗議が起こる。水道代なしの慣習でやってきたのだからそれでいいのでは、と疑問を投げかける議員もいるが、政府はEUに対し、水道料金を導入すると約束しているので、もしこの方針を撤回するとなると裁判沙汰となり、一日に何百万ユーロもの罰金を払わなくてはならなくなるかもしれない…

誤訳があったらごめんなさい。
この中で出てくるWFD第9条ですが、自分が見る限り、アイルランドのアの字も出ていない(WFDの英語テキストはこちら)。見る人が見れば、これはアイルランドを指している、ということがわかるのかもしれませんが、門外漢の日本人としては深く追求せず、ここはこうなのだ、と思うことにしましょう。

もともとアイルランドでは、水道代というのは一般の税制度の中で徴収されていたそうです。日本でも賃貸住宅の中には、家賃に水道料金が含まれている物件もあるので、このあたり理解はしやすい。同じインフラでも、電気・ガス・電話といった近代的なライフラインに対して、水というのは神代の昔から住まいの近くにあったはずだから、合理的に扱えない側面があっても不思議ではないでしょう。

ところで、この料金体系は高いのか、安いのか? 東京の水と比較してみました(東京都水道局の料金早見表はこちら)。水道局のHPには人数別の1ヶ月あたりの平均使用水量が載っているので、家族3人(約20立方メートル)、5人(約30立方メートル)のケースでシミュレーションしてみます。

東京の上水道は呼び径(メータ口径)で価格が異なるのですが、一番大きな25mmですと、20立方メートルの場合1ヶ月当たり3,391円、下水道が1ヶ月当たり1,684円なので合計5,075円。30立方メートルの場合は1ヶ月当たり4,773円、下水道が1ヶ月当たり2,821円なので月額合計7,645円。

これに対しアイルランドは、メータつきの計算式では、1,000リットル=1立方メートルですから、1ヶ月の消費量20立方メートルでは4.88×20=97.6ユーロ(1ユーロ120円とすれば97.6×120=11,712円)。30立方メートルでは4.88×30=146.4ユーロ(同146.4×120=17,568円)。メータなしの、家族の構成員数で計算されるケースでは、大人3人のときは年額176ユーロ(一人目)+204(102×2;二人目と三人目)ユーロ=380ユーロとなり、月額にすると31.66…ユーロ(同3,800円)。大人5人のときは二人目以降が408(=102×4)ユーロなので合計584ユーロ、月額48.66…ユーロ(同5,840円)?

家族3人の1ヶ月料金が、メータつきでは100ユーロ近くで、メータなしが30ユーロちょっとなんて、3倍も違う!使用水量が東京とは違うのでしょうか。また、追加分の大人料金102ユーロの扱いについては、我ながら翻訳がちょっと怪しいので、アイルランド当局の料金表に当たるべきかもしれません。

水道代込みの税体系をどうするのか、記事に言及がないのでなんともいえませんが、このままでは税と水道料での2度払いになるようにも見えます。とすれば抗議のデモも不払いも理解できないことはありませんが、現地の反発の根っこはもっと深いようにも思えます。イギリスの離脱問題で揺れるEUですが、異なる文化や歴史を持つ国々をひとつにまとめる難しさを象徴する事案のひとつといえそうです。

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